三上亜希子さんエッセイ
夏の暑い日。盛岡から2時間あまりの道のり。そのうち40分は林道です。傍らには渓流、延々つづく木立のトンネルが影をおとしていて、ハイウェーを走っているときより、体感で5℃くらい涼しい。目の前が開けたら、その集落はありました。
この日、お訪ねしたのは、三上亜希子さん。ここ釜津田での農家のお嫁さんとしての日々を、かわいいイラストと感受性豊かな文章でつづったブログを、もう10年以上もつづけています。それは、一日のアクセスが3,000件という、大人気ブログです。「農家の嫁の事件簿」というタイトルで、東京の大手出版社から単行本にもなっています。
釜津田のメインストリートの山側に、家々が軒を連ねています。理容室や酒屋さん、農家さん。家の周りの小さな野菜畑や植木など、手入れが行き届いていて、この集落の人たちが、日々のくらしを大切にしているのが伺えます。「住みやすそうだな」。三上さんのブログを読んでいた影響もあってか、一見して、この釜津田が好きになりました。
「ブログは、三上さんちのアキちゃんの趣味なんで…」。ひかえめに語る亜希子さんですが、ブログでは「農家の嫁」の暮らしと、それを取り巻く釜津田のくらしをキラキラした感性とユーモアと、それを上回る愛情で綴っています。これから「いわて食財サポーター通信」で、4回にわたって、いわての産地からの便りを届けてもらいます。今日はその打合せに伺いました。
三上さんは、埼玉県のご出身です。大学のとき人類学を勉強されていて、卒業論文のテーマは「山村の研究」。フィールドワークとして釜津田を訪れたのがきっかけで、卒業してから岩泉町の教育委員会に就職したそうです。 「山の緑が、本当にきれいで。出会った人たちもいい人ばかりで…」。一度、住んでみたいとやってきて、気が付いたら「農家の嫁」。人の縁は不思議です。
「毎日、飽きないんです。なにかしら事件が起こるから。農家のくらしって、思った通りに行かないから面白い。野菜だって、牛だって気候やなんかで、一生懸命やっていても結果がでないってことがある。でも、季節季節、自分の育てたものをいただくうれしさもあって…。」ブログが長いこと続いているのは、そんな釜津田での日々のくらしへの愛情かもしれません。
最後に、連載にあたって、三上亜希子さんから読者のみなさんへのメッセージをいただきました。
「岩手は、季節ごとに、くらしぶりだったり、音や色があり、味があって、それが、少しでも絵で伝えられたら…。岩手は楽しいところなので、楽しんでもらえるエピソードを紹介できたらいいなって思います」。
三上亜希子さんの連載は、9月中旬にスタートです。乞うご期待。
三上亜希子さんプロフィール
1973年埼玉県生まれ。
学生時代に訪れた岩手県岩泉町で民俗資料展示室の仕事を得る。
同室勤務を経て同町釜津田で畜産(短角牛)と林業を営む農家に嫁ぐ。
家族や地域の人々との日々の暮らしやできごとをブログで紹介している。
現在、義祖母、義父母、夫、牛10頭、犬、猫とともに暮らす。