Vol.028 岩手ジビエ 鹿肉
大槌町は、岩手県の内陸から沿岸へと広がる自然豊かな町です。ミネラル豊富な大槌湾では、さまざまな魚や貝類、海藻などが水揚げされます。一方、北上山系の雄大な森が広がる内陸部には、多様な動植物が息づいています。しかし、増え続けるシカにより、農作物を食い荒らされるなどの被害が深刻化し、やむなく農業を諦める人も少なくありません。そうした中、「故郷の現状を何とかしたい」という思いに突き動かされ、立ち上がった一人のハンターがいました。MOMIJI株式会社の代表、兼澤幸男さんです。
シカによる農作物への被害をきっかけに、鹿肉の加工製造・販売などを手掛けるMOMIJI株式会社を設立。県内外を問わず自治体や民間団体が視察に訪れており、各地でジビエ活用の輪が広がっています。
兼澤さんは、農業を営む父の畑が害獣による被害を受けたことをきっかけに狩猟免許を取得しました。大槌町では古くから狩猟が行われており、ハンターたちは「奪った命はありがたくいただく」という教えを守ってきました。しかし、ハンターとして活動するなかで、実際には、捕獲したシカを廃棄せざるを得ない現状に違和感を覚えたといいます。「生き物への敬意を持ちながら、農作物の被害を減らしたい」と考えた兼澤さんは、自治体や地元の猟友会などと連携し、ジビエ活用の勉強会を開催。話し合いを重ねた末に、鹿肉の加工・販売を手掛ける「MOMIJI株式会社」を設立しました。同社では地元のハンター約60名と契約し、厳しい基準を設けてシカを仕入れています。
ジビエのおいしさは迅速な処理が重要です。国のガイドラインでは捕獲後は速やかに処理することが推奨されており、目安として2時間以内が望ましいとされています。最上級の「MOMIJIプレミアム」は、肉質の柔らかさを追求するため、3歳以下のオスと4歳以下のメスに限定。急所を狙い一発で仕留めたものを丁寧に血抜きし、1時間以内に自社工場で処理します。さらに、県の出荷・検査方針に基づき、放射性物質の全頭検査を行い、安全性と品質を徹底管理しています。
プレミアム以外のランクも、厳しい基準を満たしたものだけが商品化され、食用に適さない場合はペットフードに加工するほか、角や皮なども雑貨類に活用しています。
兼澤さんは「岩手の豊かな自然こそが、おいしさの秘密。今後は岩手全体のジビエ事業を展開し、持続可能な町づくりを目指していきたいです」と語ってくれました。
鹿のモモ肉を、ドライエイジング(乾燥熟成)によって旨味を凝縮させたものを使用。オーブンで丁寧に焼いては休ませる工程を重ね、最後にわらの煙をまとわせたら完成です。鹿肉本来の味や、しなやかな歯ごたえが楽しめる逸品です。
「割烹 岩戸」は、大槌町で130年以上の歴史を誇る老舗です。岩手県産の食材にこだわり、“基本に忠実な和食”を一品一品、丹精込めて作り続けています。「MOMIJI」の鹿肉を使う理由について、店主の佐藤さんは「素早く適切に処理されていて、臭みがなく、旨味の強い非常においしい肉だったから」と語ります。そんな佐藤さんに、県産野菜とのマリアージュが楽しめるおすすめ料理も紹介していただきました。
鹿のモモ肉を、ドライエイジング(乾燥熟成)によって旨味を凝縮させたものを使用。オーブンで丁寧に焼いては休ませる工程を重ね、最後にわらの煙をまとわせたら完成です。鹿肉本来の味や、しなやかな歯ごたえが楽しめる逸品です。
鹿の骨で取ったスープをベースに、鹿肉のスジと県産野菜をじっくり煮込みました。天然の舞茸を添え、香り付けにはコウタケを使用。二子さといもを饅頭に仕立て、ねっとりとした食感も楽しめる一品にしています。
[二子さといも]
岩手県北上市二子町で栽培される「二子さといも」は、とろけるような食感と強い粘りが特徴です。2018年には、GI(地理的表示産品)にも登録されました。


