岩手のごっつぉ食べらんせ

暮坪かぶ
暮坪かぶ
暮坪かぶ
遠野市

暮坪地区だけで栽培されて400年以上 独特な辛さ

暮坪かぶ

 かぶの品種では珍しく丸くない長根の白かぶ。地上に出ている淡い緑色の部分から、土の中の白い根本まで長さは約20cm、太い所で直径3~4cmほどの小さな青首大根のよう。病害虫対策など品種改良されていないため原種に近いことから、注意深く育てている。本来は秋に収穫する野菜だが、夏の収穫用にも作付けし、年2回生産する。地元では昔から漬物として食べられてきた。唐辛子やワサビとは違った独特の辛味が特徴で、おろした暮坪かぶはそばや刺身・焼肉などの薬味として使われている。

遠野市

土臭くて辛いけど爽やかな味を暮坪の畑で大切に育てます。

代々、暮坪かぶを育ててきた遠野市上郷町佐比内暮坪の農家の家に生まれた。近隣農家と生産組合を結成し、地域で栽培に力を入れてきたが高齢化により農家が減少。菊池家1戸だけになったが家族で栽培に取り組む。

協同組合暮坪かぶ理事長 菊池 貞三さん
暮坪かぶ

つむぐ風土-Story

先人から受け継がれた伝統かぶ
暮坪かぶ

 遠野市の南東に位置する上郷町佐比内暮坪地区は、六角牛山の麓に広がる田畑と民家が点在する集落。山に囲まれた盆地の小さな村に400年以上前の天正年間(1500年代後半)、近江の薬売りの近江弥右衛門が「かぶ」の種を持ち込んだ、という言い伝えがある。
 畑作中心の暮坪地区で、村の人々によって代々栽培が受け継がれてきた。葉ごと丸漬けし、たるの中で2年間じっくり漬ける「古漬け」が昔からの食べ方。歯ごたえと酸っぱさが特徴の保存食だったが、今は漬ける家がなくなった。

つむぐ人-Story

家族総出で収穫の喜び

 稲刈りが終わり、秋が深まりつつある10月下旬、遠野市上郷町に青々とした葉が伸びる畑があった。近付くと畝に沿って地面から、薄い緑色の顔がずらりと出ている。まるで細い青首大根のようなこの野菜が「暮坪かぶ」。勢い良く広がる葉は、よく見ると丸みを帯びたカブの葉だ。太さを確認しながら1本ずつ丁寧に引き抜く。
 「種まきから間引き、草刈りなどの管理、収穫、出荷まで全部手仕事、人力です。少しねじりながら引き抜くのがコツ」と、慎重に収穫作業をするのは協同組合暮坪かぶ理事長の菊池貞三さんと妻の明美さん。暮坪かぶを栽培するたった1軒の農家だ。「夏の作付けは8月の雨続きで出来があまり良くなかったので、秋は太さもあり例年通り育った」と安心した表情で語る。
 両手いっぱいに収穫した暮坪かぶは、父・万太郎さんの元へ次々と運ばれる。専業農家で田畑を守り、暮坪かぶを作り続けてきた万太郎さんが、包丁で手際良く葉を落とし、葉の付け根の土などの汚れをきれいに取って軽トラックの荷台に並べていく。菊池さん家族が手間暇掛けて大切に育てた暮坪かぶは、土付きのままか水洗いした2通りで出荷される。

「究極の薬味」として脚光を浴びる

 農家の保存食として細々と栽培され、暮坪の地区でしか食べられてこなかった「かぶ」。小さく食べる部分が少ないため、野菜としての価値はないとして育てる人が減っていた。
 転機は30年ほど前、近くに入浴・宿泊施設がオープンした際、遠野らしい郷土食としてそばの薬味にかぶを使った。以来、一般に知られるようになり、グルメ漫画『美味しんぼ』に登場。そばや刺身の「究極の薬味」として絶賛され、一躍有名になった。
 そこで特産品にしようという機運が高まり、当時栽培を手掛けていた地域の農家たちが「協同組合暮坪かぶ」を組織し、全国へも通用する野菜として本格的な商品化に取り組んだ。

唯一無二の暮坪かぶを守り育てる

 「暮坪の土壌でないと独特の辛味が出ないのですが、同じ畑で連続して栽培できないため、地域内で毎年、畑を替えながら育てています」と菊池さんは暮坪地区内に所有するいくつかの農地で栽培することにこだわる。マルチを敷いて農薬を最小限に抑え、野生生物の被害や虫食いがないよう細心の注意を払う。
 現在も自家採種。毎年、大事に種を採って翌年に備える。最大の課題が農家の高齢化だ。
 「年取ってみんな栽培しなくなり、うちがやめたら暮坪かぶは途絶えてしまう」と危機感を抱く。積み重ねてきた栽培方法こそ「究極の伝承」であり、「毎年待ってくれているお客さんがいるからね」と笑う菊池さん一家の奮闘は続く。

おらほの食卓 おらほの食卓

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岩手の食がつむぐ物語 Iwate's food story

暮坪そば

つむぐ料理人-Story

こだわりのそばとつゆで究極の味「暮坪そば」をどうぞ!

 3種類のかつお節などでだしをとり、化学調味料を一切使わずに手作りする自慢のつゆ。二八そばに薬味として添える暮坪かぶは、生産者から直接、仕入れている。「かぶを半分ほどつゆに入れ、お好みの量でお召し上がりください。辛味はありますがかぶ特有の甘みと渋みがそばの風味を引き立てます」と店主の鎌田さんは笑顔で語る。
 漫画『美味しんぼ』のスタッフが何度も来店し「同じ暮坪かぶを使っても、そばとつゆの相性で店によって味が違い、高松庵の味が一番おいしい」と太鼓判を押した。それを聞いた原作者の雁屋哲氏が約5年前に来店。究極のそばを味わったという。
「遠野でそばを栽培し、自家製粉のより良いそばを提供するのが夢です」。鎌田さんの挑戦は、いつの日か暮坪かぶのふるさとでも始まりそうだ。

プロの逸品

暮坪そば

目の細かいおろし金でゆっくりおろす。ツンとした香り。かぶの繊維と水分がだしのきいたつゆに調和する。口の中にピリピリと広がる辛味がそばの味を一層引き立たせる。

店主 鎌田 重高さん

店主 鎌田 重高さん

花巻市出身。そばを作り続けて50年。念願の自分の店「麺房 高松庵」を花巻市高松の国道456号沿いの宮沢賢治記念館近くに開店して30年になる。11年前には、平泉町に2号店をオープン。両店とも暮坪そば目当てに来店する地元客や観光客に親しまれている。

麺房高松庵 花巻店

〒025-0014
岩手県花巻市高松11-172-1
TEL:0198-31-2888

営業時間

11:00~15:00
(そばがなくなり次第閉店)
定休日/不定休
駐車場/20台

暮坪かぶの取材は、下記の皆さまにご協力いただきました。
協同組合暮坪かぶ
理事長 菊池 貞三

〒028-0771 
岩手県遠野市上郷町佐比内37-11-1
TEL 0198-65-2564

麺房高松庵 花巻店

〒025-0014 
岩手県花巻市高松11-172-1
TEL 0198-31-2888

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