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  3. Vol.021 広田湾産イシカゲ貝

岩手のごっつぉ食べらんせ

広田湾産イシカゲ貝
広田湾産イシカゲ貝
広田湾産イシカゲ貝
陸前高田市

広田湾産イシカゲ貝

 天然のエゾイシカゲガイは、茨城県以北から北海道の太平洋岸で水深10~100mの砂泥底に生息するといわれる。1996年、広田湾漁業協同組合が全国初の養殖事業化に成功。2022年2月には「広田湾産イシカゲ貝」の名称で、農林水産省の地理的表示(GI)として登録された。濃厚な甘みと弾力ある歯ごたえが特徴の身は、夏から秋にかけてうま味が増す。国内の流通では「石垣貝」と呼ばれ、すしネタや刺身などに使われてきた。血圧降下やコレステロールの抑制などに効果があるといわれるタウリンが豊富に含まれ、その数値はシジミの約40倍という。

気仙沼市

波の静かな広田湾は栄養がいっぱい。
海のゆりかごで育てます。

広田湾内の16漁家で組織する生産組合。広田湾漁協が出荷数をとりまとめて各漁家に振り分け、東京都中央卸売市場などに出荷している。2022年は90tを目標に、11月ごろまで出荷を続ける予定。

つむぐ風土-Story

広田湾は「海のゆりかご」

 陸前高田市の気仙川が注ぐ広田湾は、淡水が混じるためイシカゲ貝の餌となるプランクトンが豊富な漁場。海の中の豊かな栄養分により、天然と同じ環境で育ちます。また、内湾のため波や潮の流れも穏やかで、発泡スチロール製のタライ型の容器を海中に吊るす養殖方法に適している。

つむぐ人-Story

ピンチを乗り越え養殖に情熱注ぐ

 海にきらきらと朝日が輝く広田湾の午前6時過ぎ。帰港した船からタライ型の容器が次々と運ばれる。容器に入った砂の中からゴロゴロと現れる2枚貝が「広田湾産イシカゲ貝」。砂を海水で流しながら一つずつ丁寧に選別し、水槽の中に一晩置く。排泄物を吐き出した新鮮なイシカゲ貝は、3~5℃の殺菌冷海水に入れられて首都圏などへ出荷される。
 「臭いを嗅いで弱っていないかチェックし、たたいた音で中に入っている身の密度がわかります。今年のサイズは立派ですね」と満足気な広田湾産イシカゲ貝生産組合長の熊谷信弘さん。手早くさばいてくれた貝の中には、いっぱいに詰まった黄色の身。口の中に広がる特有の甘さ、弾力のある柔らかい食感は誰もがもう一度食べたくなる「海の恵み」だ。
 沖合約1㎞付近に養殖施設を設置。タライ型の容器を海中に吊るす。春先、この「海のゆりかご」に稚貝が自然に入る。砂を入れ替え個数調整するなど熊谷さんたちが手間暇掛けて育て、1㎝前後だった稚貝が3年程度かけて5.5㎝以上に成長する。3年目の夏に水揚げされた容器の砂の中には成長した大きなイシカゲ貝とたくさんの稚貝の姿も見られた。

気仙の漁師は「あきらめない!」

 養殖には多くの苦労と困難があった。30年ほど前、岩手県が推奨し各地で取り組んだトリ貝のタライ養殖。しかし、夏場の海水温が上がり多くが死んでしまうという結果に。一方で、養殖で使った容器には知らぬ間にイシカゲ貝の稚貝が入り成長して生き残っていた。そこに興味を抱いたのが、陸前高田市の小泉豊太郎氏だった。
 小泉氏は一人で地道に養殖の方法を模索し、採苗から出荷までの技術をほぼ確立。ピンチをチャンスに変える気仙の漁師の心意気が、新しい産品を生み出した。その後、養殖を始める人が徐々に増え、出荷量も右肩上がりだった。
 しかし、もう一つの大ピンチは東日本大震災津波。熊谷さんは「船もなくなり、軌道に乗り始めていた養殖施設は全壊。途方に暮れた」と当時を振り返る。「とにかくやってみっか」。再び海に向かったその強い気持ちは3年後、見事に出荷を再開させた。

広田湾産オンリーワンの希少な味

 「俺たちしかやっていない、という自負と意義を感じながら生産しています。ここでしか養殖ができない『オンリーワン』だということをPRしていきたい。GI登録も陸前高田市の産品としてのブランド化ができたという認識です。だから、管理や出荷方法も念には念を入れています」と胸を張る。
 ところが、養殖でありながら稚貝が採れるかどうかは自然任せだ。「稚貝が多い年、少ない年のばらつきがあります。今後、人工採苗に取り組んで方法を確立し、生産の安定を目指したい。これからも『広田湾産』というブランド名に恥じないようイシカゲ貝養殖を守り続けていきます」。熊谷さんの意欲は尽きることがない。

おらほの食卓おらほの食卓

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岩手の食がつむぐ物語 Iwate's food story

イシカゲダンス

つむぐ料理人-Story

地元で獲れた自慢のすしネタ イシカゲダンスをぜひ見に来て

 その日に水揚げされた魚介類などを提供する鶴亀鮨。2022年、創業40周年を迎え、鮮度と腕の良さ、そして店主・阿部さんのサービス精神に魅了される客が足しげく訪れる。
 阿部さんは毎年、夏に旬を迎えるイシカゲ貝を心待ちにしている。「生きている新鮮な貝をお客さんに見せるの。太い足を出してぐるぐる動くのを見て、皆さん大騒ぎして喜んでくれる」と自身も楽しそう。
 「クリーミーな甘さがおいしい高級すしネタです。海水の塩味があるから醤油を付けずに食べてもらいたいね。陸前高田にしかない味で幻の貝。養殖しているこの町で、すしを握ることができるからみんなに自慢できます」と今日も笑顔で腕を振るう。

プロの逸品

イシカゲ貝のにぎり

さばいたばかりの身は光沢のあるオレンジ色。シャリの上で先端がまだ動いている。とろけるような甘さとすし飯の甘酸っぱさが口の中に広がり絶妙な味わい。

店主 阿部 和明さん

店主 阿部 和明さん

大船渡市出身。1954年生まれ。20代から大阪のすし店などで修業、地元に戻り27歳で陸前高田市に店を構える。東日本大震災津波で店と自宅を失ったが、仮設店舗での営業再開を経て2018年、ほんまる公園通りに店舗新築。再オープンを果たした。

鶴亀鮨

〒029-2205
岩手県陸前高田市高田町字大町50
ほんまる公園通り 
TEL:0192-54-2998

営業時間

11:30~14:30(LO14:00)
17:00~22:00(LO21:30)
定休日/火曜日

広田湾産イシカゲ貝の取材は、下記の皆さまにご協力いただきました。
広田湾漁業協同組合 気仙支所
広田湾産イシカゲ貝生産組合

〒029-2204 
岩手県陸前高田市気仙町字湊38-3
TEL 0192-54-2131

鶴亀鮨

〒029-2205 
岩手県陸前高田市高田町字大町50
ほんまる公園通り
TEL 0192-54-2998

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