岩手のごっつぉ食べらんせ

ホヤ

天然のホヤが生息する水深30mの世界は、光がほとんど届かず、
体に相当な圧力がかかります。
潜水病のおそれもある中、海底で3時間近くも作業を続けられるのは、
洋野町種市に伝わる潜水技術「南部もぐり」だからこそ。
唯一無二の技術によって、海の宝石のような天然のホヤが
この港で水揚げされています。

洋野町

ホヤ
名称:ホヤ
最盛期:6月〜8月
●特徴

東北地方を中心に食され、「海のパイナップル」と呼ばれている。最近の研究で、プラズマローゲンと呼ばれる脂質に認知症予防効果があるといわれている。

透明なゼリーが新鮮な証
天然ホヤは8月頃が一番肉厚になる。水揚げされたばかりの
ホヤには、殻と身の間に透明なゼリーが付いている。
天然ホヤ漁
天然ホヤ漁は船長、南部もぐり、綱夫(命綱を扱う人)、
ホヤを箱詰めする作業員の4人1組が基本。

トゲトゲの表面の秘密は
水深30mにあり

 水揚げされたホヤを手に取って驚いた。表面のほとんどがトゲトゲとしている。一般に流通されている養殖ホヤは、密集した状態で育つためトゲの数が少なく丸みがある。洋野町種市で獲れる天然ホヤは1個1個離れて育つため、トゲが伸びてホヤ本来のパイナップルを彷彿させる形状になるという。
 この地域で天然ホヤが獲れる理由、それはここにしかない漁の方法に関係がある。水深25~30mの海底で3~4時間にわたる作業を可能とするのが、ヘルメット式潜水だ。この地域に100年以上前から伝わる技法で「南部もぐり」と呼ばれている。現在、この技法を継承しているのは磯崎元勝さん、司さん兄弟のみ。体に相当な負荷がかかるため、「大量の汗をかきますし、疲れがなかなか抜けないんです」と元勝さんは語る。

水中のホヤ

 獲りたてのホヤを殻から外すと、中からあらわれたのは、オレンジ色の身を覆うようにトゲのかたちをした透明なゼリー。「新鮮な証で、時間が経過すると消えてしまう」のだそう。艶のあるむき身を口に運ぶと、程よい塩気とともに素材の持つ自然な甘みを感じる。噛むほどに潮風の香りが鼻腔を抜けていき、舌に残るほのかな酸味の余韻が心地よい。磯崎さんから漁のお話を聞いた後だけに、単に美味しいだけではなく、感謝の念が湧いてくる。

漁師さん

磯崎元勝さん(兄、左)と司さん(弟、中央)は洋野町種市出身、種市高校水中土木科卒業。元勝さんは父のもとで3年間、南部もぐりの修行後、全国各地の海で漁や潜水の仕事に従事。司さんはサルベージの会社に就職後、地元に戻り漁師になった。

南部もぐり

「南部もぐり」の装備は80㎏超

 ヘルメットは約17㎏、専用の靴は片足約8㎏。さらに胸に14㎏、背中の上部に13.5㎏の鉛、腰にも重りを装着すると、総重量は80㎏近くに及ぶ。自分の体重を超える装備がズッシリとのしかかると思うと、想像するだけで苦しくなる。

田野畑村・潮風が香る、海を感じるひと皿

田野畑村

命を懸けて獲った食材だからこそ、気持ちを込めて

 これまでシェフツアーや商談会などを開催し、日本そして世界を股にかけるシェフたちと、岩手の食材・生産者をつないできた「ロレオ―ル」の伊藤勝康シェフ。南部もぐりの磯崎さん兄弟とは10年近く前から親交を深めている。
 一緒に船に乗り込み、漁を間近で見学したことも。緊迫した空気を肌で体験し、「命綱を付けて海へと入る姿は、まるで神事を見ているようでした。命を懸けて獲った食材だからこそ、調理の際、気持ちが入ります」と語る。

ホヤは熱を加えることで、
風味と食感が変化

 「料理は、その素材が持っていない味を加えるか、素材が持っている味に合わせるかがポイント」と伊藤シェフ。塩味、甘味、酸味、苦味、旨味の五味を持つといわれるホヤだが、キュウリと合わせることが多いのは、ホヤの苦味のレベルとキュウリの皮の苦味のレベルが似ているから。山菜の季節ならシドケもよく合うそうだ。
 今回紹介するのは、茹でたホヤの表面を軽く炙り、滅菌海水で作った寒天と合わせた一品。炙ることで香ばしさが引き立つ。歯触りも変化し、やさしく押し返すような弾力がクセになる。「ホヤが苦手」という方にこそ試してほしい調理法だ。

調理中の伊藤オーナー
オーナー伊藤勝康さん

千葉県出身。フレンチレストラン「ロレオ―ル」シェフ。地域資源・特性を活かしたモデルスタイルの構築を目指す「ポーラスタープロジェクト」を立ち上げ、一番目の拠点として2016年、田野畑村に「ロレオ―ル田野畑」をオープン。

オーナー伊藤勝康さん

「ホヤ」を美味しく
食べるコツ

 ホヤを茹でるときには半分に切りワタを取り除いた後、殻がついたままの状態で鍋に入れると、身が縮むのを防ぐ効果がある。熱が入り過ぎると身が固くなり旨味が逃げてしまうので、再沸騰させないことがポイント。

茹であがったホヤ
▲茹であがったホヤの様子
ロレオール田野畑
ロレオール田野畑
  • 〒028-8402
  • 岩手県下閉伊郡田野畑村明戸309-5
  • 営業時間/
    ランチ 12:00〜14:00(L.O)
    ディナー 18:00〜20:00(L.O)
  • ご利用日の前々日までにご予約をお願いいたします。
  • [予約専用]TEL.080-9014-9000
  • [受付時間]15:00〜17:00

天然ホヤの取材は、下記の皆様にご協力いただきました

  • 磯崎潜水(磯崎 元勝さん、司さん)
    〒028-7914
    岩手県九戸郡洋野町種市23-27-56
    TEL:0194-65-2002
  • ロレオール田野畑(伊藤 勝康さん)
    〒028-8402
    岩手県下閉伊郡田野畑村明戸309-5
    TEL:080-9014-9000

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