生産者が語る、いわての食財。
肉厚で旨みと香りが豊か。夫婦で育てた原木しいたけ。原木しいたけ農家 佐々木征一さん
岩手県は、しいたけ王国といわれるほど、しいたけの生産が盛んです。その栽培方法には、山から切り出してきた、ナラ、クヌギなどの広葉樹の原木を「ホダ木」として、菌を植え付ける「原木栽培」とおがくずを容器にいれて固めたものに、菌を植え付ける「菌床栽培」の二つがあります。原木栽培は、香りがよく、食味もいいので、根強いファンがいる。一方、菌床栽培は近代的で効率的な栽培法として近年盛んで、私たちがスーパーで見かけるしいたけの多くがこの栽培法のもの。今回取材した矢巾町は、ハウスでの原木しいたけの産地として知られています。首都圏はもちろん、遠く九州へ出荷する生産者がいるほど。矢巾町でご夫婦で原木しいたけの生産を営む、佐々木征一さんにお話しを伺いました。
おいしい「しいたけ」はね、かたちとか、色とか関係ない。軸が太くて、カサが肉厚なやつを選べばいい。大きさが不ぞろいだとか、大きすぎるとかで、選ぶでしょ?都会の人は。でもね、おいしいものを選びたかったら、肉厚かどうか。覚えておくといいよ。しいたけのおいしい食べ方?いいキノコだったら、炭火焼き。塩をぱらりとふって、炙るだけ。かみしめると、旨味が口の中いっぱいに広がるよ。あと、若い人はピザにのせたりするね。うちの孫たちは、大好きだね。うちの家内は、いろいろ工夫してる。刻んだシイタケを炊き込みごはんにしたり、めんつゆに付け込んで片栗粉をつけて唐揚げにしたり。唐揚げは、酒のつまみにもなる。うまいよ。
いま、原木しいたけ農家の経営は、楽じゃない。この原木、ホダ木というんだけれど、秋田からとりよせてる。この木を削って、放射性物質の検査もする。安心して食べてもらうために安全を確かめている。必要なことだけどね。また、私らが原木しいたけを始めたころは、スーパーでワンパック200円くらいだった価格が、安い菌床しいたけが出回るようになって、価格が100円。半分くらいになっちゃった。風評被害がひどいときなんか、一時期30円まで安くなった。
原木栽培は、手間がかかるよ。ホダ木の一本一本に、ドリルで穴をあけてシイタケ菌を植える。手に持ってみてよ、重いでしょ?菌を植えてから、ホダ木全体に、菌が回るまで6ヶ月くらい。2~3月に植えると、夏菌、つまり夏に収穫するしいたけになる。冬菌で10月~11月から冬場に収穫する。しいたけはね、菌を植えて、自然に生えてくるわけじゃないんだ。十分に菌がホダ木にまわったものを、新しい木で12時間、何度か収穫した古い木で24時間以上、水槽につけて刺激を与えるの。そうすると夏場なら、一週間くらいで芽が出てくる。一本の植菌したホダ木で、7回くらい。1㎏くらい収穫できる。しいたけは、朝、収穫にいいサイズだったものが、昼には大きくなりすぎてる。それだけで値が下がるんだ。
いま、長男が47歳で、電機メーカーのサラリーマンだったのが、後を継ぐっていうんで、春には家族5人で戻ってくる。うれしいね。いま、かあさんと二人っきりでやってるのが、中3の男の子を先頭に、3人の孫と、息子夫婦。5人増えますよ。息子が継いでくれると思うと、頑張らなきゃって思うね。